人魚と青年の心の交流を描いた物語
映画『まだあくるよに』
(監督:澤田春江 2013年公開)
オリジナルサウンドトラック集
ジャズピアニスト 福島 剛による渾身の全7曲、
堂々完成。
1.まだあくるよに
2.旅立ち
3.雨音
4.つばめ
5.クルの踊り
6.おなじ世界
7.夜明け
購入価格
1曲 ¥200
アルバム購入価格
全7曲 ¥900
ARD-002
2012年12月19日より iTunes Store にて発売!
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※iTunes Storeのシステム上の都合により
同性同名のアーティストと混在して表示されております。
『まだあくるよに』以外の作品は
当社所属の福島 剛氏とは一切関係ございません。
Asymptote Records
『まだあくるよに~サウンドトラック集~』によせて 福島 剛
今年の夏もまだこれからという時期。映画『まだあくるよに』の監督である澤田春江氏から映画の音楽を頼みたいという連絡を頂いたときに、私は何の逡巡もなく「やります」と答えた。私自身映画音楽をこれまでに手がけた事はなかったが、純粋な興味と「何とかなるだろう」という根拠のない楽観ゆえである。不遜を承知で言うが、ある程度自信があったのだ。だが結論から言えばそれは完全に「甘かった」。美しい映像に合わせて楽曲を制作し録音するという過程は、想像の遥か上を行く難しさであった。その難しさが私のピアニスト魂に、そして作曲家魂に火を点けた。「この素晴らしい映像を、オレの音楽でさらに美しく彩ってやるのだ」という情熱が私の中に湧き上がった。推敲に推敲を重ねて、手前味噌にはなるが十分に満足のいく楽曲群が出来上がった。そんなときにレコードレーベル「Asymptote Records」のレーベルオーナーである町田浩明氏とプロデューサーである南たけし氏から、作品をサントラ集として出してみないか、という話を頂いた。丹精を込めて創り上げた作品群を形あるものにして発表出来るという事は、私にとってこの上ない喜びである。映画作中で使われている全楽曲の中から、ピアノの独奏による作品のみを抜粋して一つのアルバムとした。録音に全面的にご尽力頂いた梶川朋希氏、そして「Asymptote Records」の町田浩明氏と南たけし氏、また監督の澤田春江氏を始めとする映画製作スタッフの方々、出演されている役者の方々。これら全ての人々から様々な刺激や協力を頂けたお陰で、この作品は完成の日の目を見た。思い返してみれば、結局私は曲を書いてピアノを弾いただけである。関わって頂いた全ての方々に感謝する。私を支えてくれている家族にも。もし、このサントラ集を聴いて興味を持って頂けたら、是非映画『まだあくるよに』を観てほしい。人魚と青年の心の交流を描いた美しい物語である。
1.「まだあくるよに」
映画の冒頭シーンに現れるのは、象徴的な一枚の梟の絵。その梟が夜の空を導くようにして、静かに、そして穏やかに人魚のクルと青年れんげの二人の物語は幕を開ける。どこから来たのだろう、どこへ向かうのだろう。美しく不思議な物語の始まりを告げる、澄んだ水の流れのような一曲。
2.「旅立ち」
まだ不安を抱えた二人。別の場所で生きてきた知らないもの同士が、少しずつ歩き始める。一音を大切に、そして流れるように。そんな事を考えながら録音してみた。全七曲の中でも珍しく、曲の半分以上の部分が即興演奏である。
3.「雨音」
少し肌寒い夜に、雨が地面を叩いている。隣の屋根や塀や軒先を叩いている。その音を聞くにつけ、私は何か大きなものに包まれているかのような安堵を感じる。不均一なリズムは繰り返される内に一個の複合体として私の身体に沁み入る。そんな自然の音を聴きながら一杯の酒を呑むのを私は無上の愉しみとしているが、もしも似たような形で聴いて頂ければ幸いである。
4.「つばめ」
虚空を舞うつばめを見つめるクルとれんげ。北から南へ、南から北へ。旅を続けるつばめのように二人は歩き続ける。静かに間断なく鳴り響く和音と、それを支える唯一の低音。3曲目の「雨音」と同様に反復されるその表現は、自然の理(ことわり)を表している。
5.「クルの踊り」
脚がある。少しの違和感と大きな喜びを噛み締めながらクルは踊り出す。最初はぎこちなく、そして次第に軽やかに。それはこれまでに見た事のない新しい世界が眼前に拡がったかのようだ。その臨場感を大切にする為に、実際にピアノを弾きながら映像を見て即興で録音された作品。
6.「おなじ世界」
隔たれたように見えた世界。決して交わる事はなかったかも知れない世界。幻のように脆弱に見えた絆が、確かに二人を引き寄せた。数奇な縁(えにし)の悪戯で、二人は今、おなじ世界にいる。物語の佳境、海のシーンを彩るナンバー。
7.「夜明け」
元々はアフリカの大地の夜明けをイメージして書いた作品をこの映画作品に合わせてリアレンジしたもの。大地に太陽が昇り、種々の生命が動き出す。ある生命は殺され息絶え、また別の場所では新しい生命が誕生する。有史の遥か以前から粛々と営まれてきた生命の根源的な輪廻をドラマティックなピアノで表現した意欲作。夜が明ける。太陽が昇る。そしてまたもう一度、夜が来る。映画のエンディングを飾る、渾身の一曲。
文:福島 剛